電子政府を活用する – 法令検索編 —
私たち研究員は、世の中に存在するしくみを効率的に活用することを使命と考えています。現在あるしくみをとことん活用し、そのしくみが不便であれば当局や所管団体に改善点をフィードバックします。そうして、社会がよりたのしく健康的になることを願っています。
本レポートでは「電子政府」のひとつである「法令データ提供システム」について考察します。
1. そもそも電子政府とは
日本では、2001年にいわゆる「IT基本法」(正式名称は”高度情報通信ネットワーク社会形成基本法”)が施行されたことで以下の取組みを推進しています。
行政内部や行政と国民・事業者との間で書類ベース、対面ベースで行われている業務をオンライン化し、情報ネットワークを通じて省庁横断的、国・地方一体的に情報を瞬時に共有・活用する新たな行政を実現する
2. 電子政府、最初の取組は”法令データ提供システム”
日常的に法律を参照する研究員が、最初に電子政府の恩恵を受けたのは法令データ提供システムでした。六法全書や各種法令がインターネットに公開されたのです。2001年4月のことでした。IT基本法が施行された直後です。まずは電子化しやすいテキスト情報として法令データが取り上げられたのです。
この法令データ提供システムの便益を3つ説明します。
- 書籍購入費用の節約
紙で綴られた法律全書も使い込むほどに味がでてよいものですが、毎年の法改正に合わせて購入するのは経済的ではありません。PCとインターネットの環境があれば書籍購入が必須ではなくなりました。
- 検索機能
相続のように、民法と税法など複数の法律が相互補完している事案には、キーワードで検索することにより、条文の見逃しを防ぐことができます。
- 法律の序列関係がリンクされている
法律には序列、いわゆる優先順位があります。たとえば、会社法は以下の構造になっています。これらがハイパーリンクによって関連づけられています。
会社法 (法律) → 会社法施行令 (政令) → 会社法施行規則 (省令)
では、実際に会社法のなかで、定款の閲覧について定めた条文を例に、この3つの便益を検証してみましょう。
第一の便益は書籍を購入せずにすむということでした。以下のとおり、Webサイトで会社法を読むことができます。定款の閲覧は第31条ですので表示してみましょう。
会社法第31条 (定款の備置き及び閲覧等)において、第2項3号では次のように定められています。
三 定款が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求
では、「法務省令で定める方法」とはどんな方法なのか、法令データ提供システムで調べてみましょう。
ここで第2の便益である検索機能が役立ちます。Webサイト内で、”省令”である会社法施行規則を検索します。他の法令と同様に、会社法も法律のなかで定めた条文を、施行令がより詳しく補足し、運用規則などの具体的なきまりを施行規則が規定しています。
会社法施行規則を照会し、Webの検索機能で「法第三十一」と指定すると7件ヒットします。その2件目が”方法”について規定している条文です。
前述したように、電子データですから自由検索で該当箇所をすぐに見つけることができます。
第二百二十六条 次に掲げる規定に規定する法務省令で定める方法は、次に掲げる規定の電磁的記録に記録された事項を紙面又は映像面に表示する方法とする。
法第三十一条第二項第三号 (… 以下、関連条文が続く)
会社法と会社法施行規則の両方を読み解くと、定款の閲覧は「紙面または映像面に表示」すべし、ということがわかります。
法令データ提供システムの第3の便益は、該当法令にハイパーリンクが張られていることです。上記のように「定款の閲覧」という条文を上位の法律からたどっていくと、下位の施行規則で該当条文にハイパーリンクが張られています。このリンクをクリックすることで上位条文を参照することができます。これは、普通に便利なことです。
加えて便利なのは、法律の”網の目”をハイパーリンクでたどることです。
会社法施行規則で「紙面または映像面に表示」すべし、と定めているのは電子定款だけではありません。施行規則第二百二十六条の「次に掲げる規定」には実に33の条文が列挙されています。
たとえば、会社法施行規則第二百二十六条 第11号のリンクをクリックすると、株主総会の議事録の閲覧について規定しています。
法律を読み解くとき、こうした関連規定を文字通り網の目のようにおさえておくことが肝要です。
会社法を例に、法令データ提供システムの便益を検証しました。
3. 所管を超えたデータベース化が待たれる
最後に、利用者の立場から提言をします。惜しいなと感じる改善点を2つ掲げます。
法令と通達をハイパーリンク化してほしい!
法律の運用にあたっては、行政府が定める「基本通達」「個別通達」という文書群があり、現場ではこれらの通達を参照しないと実務がまわりません。
しかし、あたり前のことながら、法令データ提供システムで扱っているのは「法令」のみです。法令の運用を定めた通達を参照するときは、所管省庁のWebサイトを訪問しなくてはなりません。
利用者の立場からすると、法令と通達は相互にハイパーリンクされ、Webサイトを行き来することなく、縦横無尽に検索/照会したいものです。
立法と行政を分けた3権分立の考え方も理解していますし、法律と通達の役割の相違も理解しています。しかし、そのことと電子政府の使い勝手は別ではないでしょうか。
IT基本法の下記のねらいを尊重し、いずれは通達と法令のハイパーリンク化が実現することを願っています。
情報ネットワークを通じて省庁横断的、国・地方一体的に情報を瞬時に共有・活用する新たな行政を実現する
国立国会図書館の法令索引と蜜連携してほしい!
法令データ提供システムを訪問すると、右上に「法令沿革」なるリンクがあり、そこをクリックすると、国立国会図書館の「日本法令索引」のWebサイトが現れます。そして、そのWebサイトの右側には法令データ提供システムへのリンクが。。。。。
惜しい話です。この相互ハイパーリンクは不要ですね。ひとつのWebサイトに統合していただきたいです。
今回は法令データ提供システムについて取り上げました。2001年に公開されたときは画期的な取組みであったと記憶しています。画面イメージは公開当時とほとんど変わっていません。多くのユーザに支えられ、さらなる拡充が待たれるところです。