永代地上権が設定されている土地に係る固定資産税の納税義務者について

 

毎年4月頃になると、固定資産税の納税通知書が納税義務者宛に送付されます。各自治体の首長による税額決定の通知書です。納税義務者はこの納税通知書に基づいて固定資産税を負担します。

ところで、固定資産税の納税義務者は、原則として土地や家屋などの所有者ですが、それを定めている根拠は、どの条文でしょうか。固定資産税は、国税ではなく地方税で、その根拠条文は地方税法(昭和25年法律第226号)に求めることができます。同法第343条第1項に、「固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する。」と規定されています。

この条項には、「固定資産税は、固定資産の所有者に課する。」とあり、先に述べたとおり、固定資産税の納税義務者は、原則として土地や家屋など固定資産の所有者ですが、ここで注目すべき点は、この条文の括弧書きです。そこには、「質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。」とあります。土地に質権が設定されている場合や百年より永い存続期間の定めのある地上権が設定されている場合には、その土地の固定資産税は、その土地の所有者ではなく、質権者又は地上権者に課する旨規定されています。この規定は、所有者課税の例外規定として定められたものであり、「質権者又は地上権者は、その土地を占有して使用収益し得るものであって、その土地を実質的に支配することとなり、所有者はその所有権に著しい制限を受けることとなるものであるから、その場合には所有者にかえてその土地についての使用収益の実質を有する者に課税しようとするものである 。」(固定資産税務研究会『令和元年度版 要説固定資産税』株式会社ぎょうせい、令和元年、41頁)、との考えによるものです。

では、本稿の表題に記した、永代地上権が設定されている土地に係る固定資産税の納税義務者について、論を進めていきましょう。永代地上権とは、存続期間を「永代」(永久、永遠を意味する熟語)と定めている地上権のことです。

弊社(株)たのしむ総合研究所が所在する富山県滑川市では、明治期に旧滑川町において多数の永代地上権が設定され登記された経緯があり、今日においても600筆を超える土地に永代地上権が設定・登記されています。資料「永代地上権設定筆数」(滑川市作成)は、各町内の土地の筆数と、その内数として、永代地上権が設定されている土地の筆数を整理したもので、令和元年10月現在において、総数625筆の永代地上権があることを示しています。この様に、600筆を超える永代地上権が設定されている事象は、筆者が調べた限りでは全国に他の例はなく、なぜこのような事象が当地滑川で生じたかについては、関心が持たれるところですが、この点については本題から外れることから、別の機会に譲ることと致します。

ここで問題となるのは、永代地上権が設定されている土地に係る固定資産税は、現状、土地所有者、地上権者のどちらに賦課処分されているのか、ということです。実は、筆者が所有する永代地上権設定地に対して送られた「令和2年度 固定資産税納税通知書」も、それ以前の年度の「通知書」も、土地所有者あてに固定資産税の税額決定を通知しています。滑川市の税務当局(処分庁)は、「永代」という「百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」であるにもかかわらず、その土地の所有者に対して固定資産税を課しています。(滑川市に永代地上権設定地を所有されている読者におかれては、是非、ご自身の「固定資産税納税通知書」をご確認下さい。)

永代地上権設定地に係る固定資産税納税義務者に関する地方税法第343条第1項括弧書きの解釈について、地方税法の担当官庁である総務省(旧自治省)はその有権解釈を示しておらず、また、本件に関する確定判決もないことから、今から約2年前(平成30年4月)になりますが、筆者は、永代地上権設定地に係る固定資産税の賦課処分につき、行政不服審査法(平成26年法律第68号)の規定に基づき、審査庁たる滑川市長に対して、処分の取消しを求める審査請求をしました。(※「行政不服審査制度」(滑川市ホームページ)参照)

本稿執筆時点(令和2年4月15日現在)では、審査庁の裁決書はまだ筆者に到達していませんが、審査庁が諮問した滑川市行政不服審査会からの答申の内容については、既に公表されており、「行政不服審査裁決・答申検索データベース」でこの答申の内容にアクセスできます。(※「答申検索」をクリック⇒「答申情報検索」を開く⇒「フリーワード検索」に固定資産税と記入、又は「行政不服審査会等の名称」に富山県滑川市と記入し、「検索」をクリックすると、本件審査請求が検索されます。カーソルをわせると画面が黄色に変わるので、これをクリックすると「答申詳細情報」が表示され、「R1答申第1号.pdf」をクリックすると「答申書」が表示されます。この答申書には二つの案件が記載されていますが、永代地上権は最初の案件「審査請求1関係」です。)

滑川市行政不服審査会の答申は、審査庁の棄却の裁決は妥当でなく、審査請求人(筆者)に対する固定資産税賦課処分を取り消すのが相当である、とするものです。審査庁は、審査会からの答申を受け、遅滞なく、裁決をすることとされています。筆者としては、審査庁が、答申に基づき、当該賦課処分を取り消す旨の裁決をすることを期待しており、また、当該裁決に基づき、600筆を超える永代地上権設定地に対する滑川市税務当局(処分庁)の固定資産税賦課処分が是正されることを、期待しています。(令和2年4月15日脱稿)

研究主幹 斉藤敏夫

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