~「滑川町誌」等の証拠資料、弁論趣旨等に基づく高裁判断~

(はじめに)

本稿は、筆者のレポート「固定資産税賦課処分等取消請求事件控訴審判決概要」(令和4年12月9日)の別稿です。「控訴審判決概要」では、名古屋高等裁判所金沢支部(高裁)は、本件地上権に係る存続期間として登記されている「永代」という文言が永久、すなわち100年より永い存続期間を意図していたと推認するのが合理的である旨判示したことを紹介しましたが、本稿では、その推認に至った過程を控訴審判決文の記載に即してレポートするものです。併せて、本稿が、旧滑川町(現滑川市街地)において、なぜ永代地上権が設定されている土地が多数(625筆、令和元年10月現在)存在するのか、その背景を理解する一助となるものと思料します。

(地上権の存続期間の定めに係る解釈方法)

(「永代」のような)多義的な地上権の存続期間の定めが登記された場合、その定めは、文言の国語的意味を基本としつつ、合意の当時に当事者が置かれていた状況等を考慮して、当事者がその文言により表現しようとしたところを探求する方法によって解釈せざるを得ない旨高裁は判決において説示しています。

そして、高裁は本件地上権が登記手続された当時(明治34年ないし明治43年。設定日はいずれも明治33年3月1日)、本件地上権の当事者が置かれていた状況を、前提事実、証拠、弁論の全趣旨及び法令の施行日等の公知の事実により、事実認定を行います。なお、当該証拠の資料については、いずれも第一審において原告(筆者)が提出したものです。滑川市からの証拠資料は、控訴審において高裁から照会がありましたが、提出された証拠はありませんでした。

(証拠文献)

本件各土地(筆者所有の永代地上権設定地)の登記記録の他、筆者が提出した証拠文献で高裁が検討の対象としたものは、次の二つの文献です。

富山県滑川町役場「地上権騒」『滑川町誌 上巻』大正2年8月28日発行、432-439頁

梅原隆章「附録 滑川町における地上権設定論争」『1928年の電気争議』顕眞學會、昭和28年11月15日発行、239-263頁。

前者は、明治33~35年頃の永代地上権設定当時から10数年しか経過していない時期に旧滑川町役場自らが編纂した町誌からの抜粋であり、リンク先に筆者所有の原本の写しを載せます。

後者の梅原論考は、前者の町誌から約40年後に発表されたもので、その内容は当該町誌やその草稿に基づき整理されたものと推察します。原本写しは著作権上の問題があり得るので掲載しませんが、いずれにせよ、両方の文献は、国立国会図書館や滑川市立図書館で検索・閲覧等可能です。

(高裁が事実と認定した事項)

高裁は、前掲の証拠等に基づき、次の事実が認められるとしています。

ア 旧中新川郡滑川町においては、少数の富豪が町内の宅地を所有し、多数の住民が借地に居宅を構えていたが、元禄3年(西暦1690年)の大火災後、地主と借地人との間の証文に「永代借地」などの文言が現れるようになり、永代借地が慣行となっていった。

イ 地上権ニ関スル法律(明治33年法律第72号)が公布されたことを受けて、町内では地上権の登記をしなければ借地人の権利は失われるとの風評が広まり、登記を要求する借地人集団とこれを拒否する地主との間で対立が深まったことから、明治33年9月、町長を調停役として借地人代表者と地主代表者とがニ、三回にわたって交渉を行った。協議当夜には至る所に数十人ほどが集まり、中には地主をののしって不穏な発言をする者もあった。

ウ 交渉においては、地主側に民法に無期の地上権が規定されていることを指摘する者があり、借地人側は無期の地上権は実際には有期の借地である旨の反論をするなどの意見の対立があったが、結局、同年9月18日、町長が提示した案に沿った合意が成立した。その合意は、地代は地価1円に対して12銭とする旨、地上権の保有期間は永代とする旨、数年程度の地代の滞納は精算することに尽力する旨などが含まれていた。

エ 合意の成立後も、多少の曲折はあったが、明治35年10月までに地主側が合意に従った登記手続に応じ、一連の騒動は終結した。

オ 本件各土地は旧中新川郡滑川町の町域に所在し、本件地上権の設定日付はいずれも明治33年3月1日である旨が登記されている。 (引用終わり)

そして、本件地上権(本件各土地に設定された地上権)も、登記手続が上記ウ記載の合意成立後であること、設定日付も同一であることをも考慮すると、町長調停による合意の趣旨に沿って設定されたものと推認することができる旨高裁は判断しています。

以上のことから、「控訴審判決概要」のレポートで既に記しましたが、高裁は、本件地上権の設定当事者は、「永代」との文言によってその存続期間を永久と定めることを意図していたと推認するのが合理的であり、この推認を左右するに足りる証拠はない旨結論付けています。

(控訴人(滑川市)の主張に対する高裁判断)

本件地上権の存続期間は永久を意図するということに関する控訴人の各主張(反論)に対し、高裁は判決で次のように判示しています。

・証拠文献の証明力への疑義

前記証拠文献の証明力に疑義がある旨の控訴人の主張に対しては、「滑川町誌」は旧滑川町が公式の町誌として、地上権騒動から10数年後に刊行した文献であり、刊行時から見れば現代史に属する事実に関し、全くの虚偽が述べられているとは考え難いことから、前記事実認定の限度では、十分に信用することができる旨判示しています。

・存続期間を永久とする合意の不合理性

地主が存続期間を永久とする地上権の設定に合意したと推認することは不合理である旨の控訴人の主張に対しては、高裁は次のように判示しています。

・地上権騒動における合意は、地上権者の集団による圧力と、町長の仲介とを背景として成立したものであるから、地上権者に有利な合意が成立したとみる方が合理的である。

・仮に、地上権の存続期間を永久と定めることはできない旨の学説があると知っていたとしても、地上権者は自己の権利が有期のものとされることに反発していたのであるから、地上権騒動における合意は、そのような学説に従わないで成立したものと認められる。

・存続期間を永久と定める合意は無効

地上権の存続期間を永久と定める合意は無効である旨の控訴人の主張に対しては、存続期間を永久とする定めを有効と解すべきものと判断した、大審院明治36年11月16日判決の判例が説示するとおり、これを採用することができない旨判断を示しています。

(令和4年12月9日脱稿)

研究主幹 斉藤敏夫

 なお、本稿に関する問い合わせは、弊社「お問い合わせフォーム」にてお願いします。