(はじめに)

本稿は、筆者のレポート「永代地上権設定地に係る固定資産税賦課処分等取消請求事件判決概要」(令和4年1月17日脱稿)のフォローアップです。令和4年1月12日、本取消請求事件に係る富山地方裁判所の判決がありました。この第一審判決のポイントは、被告(滑川市)が原告(筆者)に対してした永代地上権設定地に係る平成30年度固定資産税賦課処分を取り消すというもので、原告勝訴となりました。

上田昌孝滑川市長(当時)は、同年1月21日、「第一審判決の法的解釈に疑義があると思料される」(滑川市議会臨時会会議録第1号)として、訴えの提起につき滑川市議会の賛成議決を得て、同月24日、同市は第一審判決を不服として控訴しました。

名古屋高等裁判所金沢支部(高裁)は、同年11月30日、控訴人(滑川市)の控訴を棄却し、第一審判決同様、当該賦課処分は違法であるから取り消す旨判決を言渡し、被控訴人(筆者)の勝訴となりました。

本稿は、当該控訴審判決の概要、特に、本件地上権に係る存続期間として登記されている「永代」という文言が永久、すなわち百年より永い存続期間を意図していたと推認するのが合理的である旨判示した点についてレポートするものです。

(控訴審判決における争点)

前回(令和4年1月)のレポートでは、富山地裁が本事件を3つの争点に整理し、それらに関する同地裁の判断の概要を紹介しました。3つの争点とは次の内容でした(括弧内は筆者による補足・加筆)。

(1) 本件各土地(筆者所有の永代地上権設定地)が「百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」(地方税法343条1項)に当たらないといえるか(争点1)

(2) 本件賦課処分(滑川市長が筆者に対してした本件各土地に係る平成30年度固定資産税賦課処分)を取り消すことにより、公の利益に著しい障害が生じ、同処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないといえるか(争点2)

(3) 本件裁決(滑川市長が令和2年4月23日付けで筆者に対してした本件賦課処分に係る筆者の審査請求を棄却する裁決)が適法といえるか(争点3)

上記争点のうち争点3は控訴審における審理の対象ではなく、控訴審判決では争点1及び争点2につき高裁の判断を示しています。

(争点1について)

・台帳課税主義

判決文で高裁は、富山地裁判決と同様、台帳課税主義に言及しています。すなわち、地方税法343条各項に基づき、土地に係る固定資産税の納税義務者について、登記簿又は所定の台帳に所有者(百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地についてはその地上権者。以下同じ。)として登記又は登録がされている者を納税義務者である所有者と取り扱う必要があり、かつ、これをもって足りるというべきである旨判断を示しています。

・地上権の存続期間の文言に関する解釈

高裁は地上権の存続期間として登記されている文言(本事件では「永代」という文言)につき、次に示すとおり深掘りした判断を示しています。判決文の該当箇所をそのまま引用すると次の通りです。

地上権の存続期間を一義的な文言で定めることを命じた法令が施行されたことはないから、法は、多義的な存続期間の定めが登記され得ることを予定していると解すべきであるが、それにもかかわらず、法はそのような場合の存続期間の定めの解釈方法を置かなかったのであるから、そのような場合の登記された存続期間の定めは、通常の方法、すなわち、文言の国語的意味を基本としつつ、合意の当時に当事者が置かれていた状況等を考慮して、当事者がその文言により表現しようとしたところを探求する方法によって解釈せざるを得ず、法も、そのような解釈をすることを予定していると解すべきである。(引用終わり)

上記の判断を踏まえ、高裁は、控訴人(滑川市)及び被控訴人(筆者)の「永代」という文言の解釈につき、次のように説示しています。

控訴人は、登記記録上の地上権の存続期間の定めが多義的であるときは、控訴人にはその解釈に関して広範な裁量権があると解すべきである旨主張するが、地上権の存続期間は、本来、当事者間においては一義的に定まるべき性質の事柄であるから、そのような事柄の認定・解釈については、控訴人に司法審査を免れるという意味での裁量の余地があるものと解することはできず、控訴人の上記主張は採用することはできない。

(中略)

被控訴人は、大審院明治36年(オ)第415号同年11月16日判決・民録9輯1244頁を援用して、「永代」との文言は一義的に存続期間を永久と定める趣旨のものと解すべきであり、これと異なる認定をすることは台帳課税主義に違反する旨を主張するものと解されるが、同判決は、「永代」との文言が存続期間を永久と定める趣旨のものと認定することができる事案について、その存続期間の定めを有効と解すべきものと判断した事案であって、その認定の当否そのものが問題となっている本件とは事案が異なる。また、「永代」との文言により当事者が表現しようとしたところを探求することと、台帳課税主義とが矛盾するものではない(引用終わり)

・本件地上権設定当時の当事者が「永代」という文言により表現しようとしたところの探求

そこで、高裁は、本件地上権の登記手続がされた明治34年ないし明治43年当時において、本件地上権当事者が置かれていた状況について検討します(なお、本件地上権の設定日は、いずれも明治33年3月1日)。高裁は被控訴人(筆者)が提出した証拠等に基づき事実認定を行い「永代」という文言により表現しようとしたところを探求していますが、本稿ではその細部については割愛し稿を改めて紹介することとし、ここでは結論部分を引用します。

その設定当事者は、「永代」との文言によって本件地上権の存続期間を永久と定めることを意図していたのであり、単に「長い期間」というような漠然とした期間を定めることを意図したものではないものと推認するのが合理的であり、この推認を左右するに足りる証拠はない。

 (中略)

控訴人は本件各土地に係る平成30年度の固定資産税を賦課するに当たって、法343条1項、2項に従い、本件各土地が存続期間を永久とする、すなわち100年より永い存続期間の定めのある地上権の目的であることを前提としなければならなかったにもかかわらず、これに反して、登記記録上の所有者であるという理由で被控訴人を納税義務者と認定し、本件賦課処分を行ったことになるから、本件賦課処分には法343条1項、2項に違反する違法があるといわざるを得ない。(引用終わり)

(争点2について)

争点2については、高裁は基本的に富山地裁の判断を支持し、次のように判示しています。

控訴人は、存続期間を「永代」とする地上権が設定された土地が多数存在することから、本件賦課処分が取り消されることにより課税庁である滑川市長に大きな負担が生じる旨主張するが、そのことをもって、本件賦課処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないといえるものではない(引用終わり)

(おわりに)

令和4年11月30日の控訴審判決は、控訴人(滑川市)の控訴を棄却し、第一審の富山地裁判決同様、本件各土地に係る固定資産税賦課処分は違法であるから取り消すというものであり、被控訴人(筆者)の勝訴となりました。しかしながら、滑川市はこの判決を不服として、同年12月5日の市議会において「上告の提起及び上告受理の申立て」につき賛成決議を得た旨聞き及んでいます。

第一審の富山地裁判決及び第二審の名古屋高裁(金沢支部)判決により、本事件に関する争点は精緻に詰められてきたところ、上告人たる滑川市が提出する上告理由書及び上告受理申立て理由書に関心がもたれるところです。いずれにせよ、早期に、本事件の判決が確定し永代地上権設定地に係る固定資産税賦課処分が是正されることを期待して止みません。

(令和4年12月9日脱稿)

研究主幹 斉藤敏夫

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