(はじめに)

本稿は、令和4年12月のレポート「固定資産税賦課処分等取消請求事件控訴審判決概要」及び「本件地上権の存続期間「永代」との文言は永久を意図していたと推認する」のフォローアップです。同年11月30日名古屋高等裁判所金沢支部(高裁)は、滑川市の控訴を棄却し、第一審の富山地方裁判所判決(令和2年(行ウ)第3号)同様、滑川市長が被控訴人(筆者)に対してした永代地上権設定地(存続期間を「永代」とする定めのある地上権が設定されその旨登記されている土地)に係る平成30年度固定資産税賦課処分を取り消す旨の判決(令和4年(行コ)第4号)を言渡し、被控訴人の勝訴となりました。令和4年12月5日滑川市議会において、柿沢昌宏副市長は「原判決を取り消し、さらに相当の裁判を求めるため、最高裁判所へ上告の提起及び上告受理の申立てをしたい」と提案したところ、この議案が付託された委員会本会議において質疑・討論がされることなく出席議員全員の賛成を得て最高裁判所への上告の提起及び上告受理の申立てが決議されました。そして令和5年4月13日最高裁判所第一小法廷は、裁判官5名全員一致の意見で、上告事由に該当せず、また、上告受理すべきものとは認められないとして、滑川市の上告棄却及び上告不受理の決定を下し、原(控訴審)判決が確定しました。確定した原判決の概要は上記2本のレポートで説明したとおりです。また、筆者の訴訟代理を受任した法律事務所が本税務訴訟を掲載していますので、ご関心のある方はそちらをご覧下さい。

今般の確定判決は、いままで永代地上権設定地に係る固定資産税の納税義務者が問題となった判例はないことから、地方税法343条1項の解釈適用についての判断の先例となる判決だと言えるものです。そこで本稿では、この先例となる判決の適用範囲(判例の射程)をどのように考えるか、特に滑川市に約600筆存在する永代地上権設定地に係る固定資産税の納税義務者についても当然地上権者であると言えるかにつき考察することとします。併せて、課税庁(滑川市)が筆者所有の永代地上権設定地以外の永代地上権設定地(約600筆)に係る固定資産税についても、その納税義務者を土地所有者から地上権者に是正することとなれば、その是正措置により幾つかの副次的効果が期待できるものと考えるのでそれらにつき私見を述べることとします。

なお、この確定判決により固定資産税過誤納金の還付等の取扱いが課題となりますが、当該還付等の取り扱いについては、後日稿を改めて説明することと致します。

(何が先例となる判断か)

本事件の主たる争点は、筆者所有の永代地上権設定地が「百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」(地方税法343条1項)に当たるのか否かです。そのような土地に当たるのであれば、永代地上権設定地の固定資産税の納税義務者は地上権者であり土地所有者ではないため、滑川市長が筆者に対してした固定資産税賦課処分は取り消されるべきことになります。

確定判決(名古屋高裁金沢支部令和4年11月30日判決(令和4年(行コ)第4号))の主文第3項は、

滑川市長が平成30年4月2日付けで被控訴人(注:筆者)に対してした原判決(注:第一審富山地裁判決)別紙物件目録に記載の各土地(注:筆者所有の永代地上権設定地)に係る平成30年度固定資産税の賦課処分を取り消す。

というもので、この判決により、筆者所有の永代地上権設定地が「百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」に当たることから、筆者に対する賦課処分は違法でありこれを取り消すべきものと判断されました。永代地上権設定地に係る固定資産税の納税義務者が問題となった判例はいままでなかったことから、今般の判決は、この問題につき地方税法343条1項括弧書きの解釈適用について先例となる判断と言えます。そして、この確定判決では、「永代」という多義的な存続期間の定めが登記された場合の文言解釈について説示し、「永代」が永久すなわち100年より永い存続期間の定めであると判断した点も先例となる判断であると言えるものと考えられます。

(多義的な存続期間の定めが登記された場合の文言解釈)

第一審の富山地裁判決では、「永代」とは、その通常の意味からすれば、永久、すなわち地上権が100年以上継続して存続することを意味するものであると解されるとしました。第二審の控訴審において、控訴人たる滑川市は、改めて、「永代」との文言には、永久、永世、長い年月といった多義的な意味があり、課税庁にはその解釈に関して裁量権がある旨主張しました。控訴審判決は、「地上権の存続期間は、本来、当事者間においては一義的に定まるべき性質の事柄である」(判決文5頁3-4行)として課税庁の裁量権を排する一方、「永代」のような多義的な地上権の存続期間の定めが登記された場合の文言解釈につき説示しています。

令和4年12月のレポートで説明しましたので細部は割愛しますが、「そのような場合の登記された存続期間の定めは、通常の方法、すなわち、文言の国語的意味を基本としつつ、合意の当時に当事者が置かれていた状況等を考慮して、当事者がその文言により表現しようとしたところを探求する方法によって解釈せざるを得ず、法も、そのような解釈をすることを予定していると解すべきである。」(控訴審判決文4頁21-26行)として、本件地上権の登記手続がされた明治34年ないし明治43年当時の状況について事実認定をした上で、本件地上権の設定当事者は、「永代」との文言によって本件地上権の存続期間を永久と定めることを意図していたのであり、単に「長い期間」というような漠然とした期間を定めることを意図していたものではない旨判断を示しました(判決文7頁1-3行)。

(この解釈方法により、仮に「永代」という文言で地上権設定の当事者が永久を意味せず100年以下の存続期間を定めることを意図していた、又は期間を定めるものではないと言えるのであれば、土地所有者への賦課処分は適法ということになります。)

(滑川市内の永代地上権設定地約600筆に係る賦課処分も判決の適用範囲か)

今般の確定判決の効力という意味では、滑川市長が筆者に対してした永代地上権設定地に係る平成30年度固定資産税の賦課処分を取り消すとの判決があっただけであり、この判決の既判力は本件当事者及びその口頭弁論終結後の承継人等にのみ及ぶに過ぎない(行訴法7条、民訴法115条)し、行政処分取消判決の形成力は第三者に対して及ぶものの(行訴法32条1項)本件賦課処分の名宛人は筆者のみであることからすれば、本件賦課処分を取り消すとの判決が確定しても、当該地以外の永代地上権設定地についての固定資産税賦課処分が一律に違法と評価されるとの法的効果は生じません。

そこで、今回の確定判決は永代地上権設定地に係る地方税法343条1項の解釈適用についての判断の先例となる判決であることから、この判決の適用範囲(判例の射程)をどのように考えるべきか、特に滑川市に約600筆存在する永代地上権設定地に係る固定資産税の納税義務者についても登記されている地上権者(又はその相続人等)であると判断すべきかについて考えてみることとします。

筆者は、筆者所有の永代地上権設定地を除く滑川市所在の全ての永代地上権設定地に係る登記記録を調査することは出来ませんが、仮に次に掲げる事実が認められるとすれば、判決で示された判断と同様に固定資産税の納税義務者は土地所有者ではなくて地上権者ということになると考えます。

・永代地上権設定に係る登記手続きが明治33年9月の滑川町長調停による合意成立後であること、

・地上権の設定日付が明治33年3月1日付けであること、

以上の事柄が登記記録から読み取れる場合には、町長調停による合意の趣旨に沿って設定されたものと推認することができ地上権の設定当事者は「永代」との文言によってその存続期間を永久と定めることを意図していたと推認するのが合理的であり、よって、納税義務者は地上権者となります。

なお、永代地上権の設定日が明治33年3月1日ではなくそれ以降の日付で登記されている土地があるかもしれません。そのような場合には、地上権設定時に次のような特約条項が登記されているか、町長調停による合意の趣旨に沿ったものであるかを含め、当事者が「永代」との文言で永久と定めることを意図したものであるかを推認する必要があるものと考えます。

(注:特約条項)

「地上権者か其権利を移転せんとするときは土地所有者の承諾を得る事を要す但地代未済其他契約不履行及ひ本町内に代納者を置かさる場合の外承諾を拒むを得さる」

(永代地上権設定地に係る固定資産税賦課処分が是正された場合の副次的効果)

4月13日の最高裁決定(控訴審判決の確定)を受けて、本稿脱稿(5月2日)時点において、滑川市長から何の発表もないことから、事後どのように永代地上権設定地に係る固定資産税賦課処分の更正措置をとるのか不明です。

滑川市は、第一審及び第二審において、永代地上権設定地が約600筆存在することから、固定資産税賦課処分が取り消されることにより、利害関係の複雑化が生じ課税庁に大きな負担が生じ、公の利益に著しい障害が生じる旨主張していました。もとより、このことをもって本件賦課処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないといえるものではなく両判決でも否認されているところ、注目すべき点は、筆者所有の永代地上権設定地に係る賦課処分が取り消された場合には、滑川市はそれ以外の永代地上権設定地に係る土地所有者への賦課処分も取り消すこととなるとの前提で主張していた点です。

このことに鑑みれば、今般の確定判決を踏まえ、滑川市は約600筆の永代地上権設定地に係る固定資産税の土地所有者に対する賦課処分を取り消し是正するものと思われますが、この是正措置が行われた場合にどのような副次的効果が期待できるのか、私見を述べることとします。

永代地上権は滑川市特有の問題だとされており、滑川市議会等でも時々質疑の対象とされています。この問題が、所有者や地上権者不明のため市街地における民間の土地売買や公共事業施工の支障になっているとの意味であれば、滑川市当局は永代地上権問題の解決に向けた法的な措置に関し特段の成果は得られていないように見受けられます。例えば、令和3年の不動産登記法の改正(令和6年4月施行)により、相続による所有権移転登記が義務化されますが、地上権についてはその対象とはされていません。こういった中で、永代地上権設定地に係る固定資産税が地上権者に賦課されるよう是正されると、次に掲げる効果が期待できるものと考えます。

(1)課税庁による地上権者等の特定

まず、課税庁(滑川市の課税当局)は賦課処分の対象者である地上権者等を特定する作業を行うことになります。登記記録に記載の地上権者が存命であればその者に賦課することになりますが、死亡している場合には、地方税法343条2項から5項までの規定及び地方税法施行令49条の2(法第343条第5項の所有者の探索の方法)の規定に基づき地上権者等を特定して土地補充課税台帳に登録しその者に課税することになります。このような課税庁の作業により、地上権者の不明状態はほぼ解消されるものと期待できます。

(2)地上権者への賦課処分とその効果

土地所有者に対する誤った賦課処分では、地上権者はその権利をいわば放置していても何ら不利益を受けませんでした。すなわち、地上権者は固定資産税の納付義務を負わなかったことから、相続が発生しても相続人が地上権の移転登記をしない、建物を使用せずに空き家状態又は更地にする、土地所有者に連絡することなく居住地を変更する等のことがあっても、それらのことに伴う地上権者の不利益はなかったと言えます。

今後は地上権者(相続が発生した場合はその相続人等)に固定資産税が賦課されることから、地上権者にとっては、その土地が不用であれば地上権を他者へ移転するか、若しくは地上権を抹消登記するため土地所有者の同意を得るか、又は固定資産税の納付と土地所有者への地代支払いを続けるか、若しくはこの際土地(底地)の購入を土地所有者に要求するか等何らかの動きが想定され、状況によっては土地等の取引が促されるものと期待できます。

(3)土地所有者の所有権移転登記の義務づけ

土地所有者には相続による所有権移転登記が義務化されるほか、所有者不明土地等の発生予防と利用の円滑化の両面から新制度が施行されることから、永代地上権設定地についても、所有者が不明な状態は解消されていくことが期待できます。(なお、永代地上権の場合は、仮に土地所有者が不明であっても、個人や法人(公共団体を含む)は土地所有者の同意を得ることなく地上権を取得することは可能であることから、建物所有を目的とした個人等による土地利用や公共事業は可能であろうと考えます。)

以上のように、現行の地方税法343条1項の規定に基づき、永代地上権設定地に係る固定資産税が地上権者に賦課されることで、その副次的効果として滑川市特有の永代地上権の問題は解決される方向に進むのではないかと思料します。

(令和5年5月2日脱稿)

研究主幹 斉藤敏夫

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