(はじめに)

本稿は、令和5年5月のレポート「固定資産税賦課処分等取消請求事件の確定判決とその適用範囲」の別稿です。同年4月13日最高裁判所第一小法廷の上告棄却及び上告不受理の決定により原(控訴審)判決が確定し、滑川市長が筆者に対してした永代地上権設定地に係る平成30年度固定資産税の賦課処分はこれを取り消すこととされました。しかしながら、処分庁(滑川市長)がこの判決により拘束されるのは、本事件(当該地に係る平成30年度固定資産税賦課処分等取消請求事件)に係る賦課処分の取り消しであって(行訴法33条1項)、この判決により本事件以外の永代地上権設定地に係る固定資産税賦課処分が一律に違法とされ取り消しとなる効力は生じません。そこで、筆者は、4月17日滑川市長に対して、地方税法の規定に基づく平成30年度以降の過誤納金の還付及び令和5年度分の賦課決定(賦課処分の取り消しに伴う税額変更)の請求、並びに時効により還付の対象ではない平成29年度以前の各年度の過誤納金相当額の返還金支払申請を行いました。本稿は、この請求等の手続きとその結果につき説明するものです。

(処分庁の対応状況)

本論に入る前に、本稿脱稿時点(令和5年6月2日)までに、4月13日の本事件に係る判決確定以降滑川市が永代地上権設定地に係る固定資産税について公開した情報を紹介します。それは、同市のホームページ上で、同年5月26日付けの「永代地上権が設定されている固定資産(土地)について」と題する以下の短いお知らせですが、筆者が承知する限り、同市が公開した情報はこれだけです。

市では、これまで存続期間を永代とする地上権が設定されている固定資産(土地)については、所有者を納税義務者としてきましたが、令和5年4月13日の最高裁判所の決定を受けて、地上権者を納税義務者とすることにいたします。該当される方には順次お知らせいたします。

本稿は上記お知らせについて批評することを目的とするものではありませんが、そもそもなぜ滑川市長が納税義務者を変更することになったのかその理由の説明がない他、所有者にとっては、自分が「存続期間を永代とする地上権が設定されている固定資産(土地)」の所有者であるか否かをどのように確認するのか、過誤納金の還付請求又は返還金支払の申請はどうすればよいのか等に関する説明が全くありません。また、地上権者にとっては、自分が納税義務者となる地上権者に当たるのか、何年度まで遡って納税する必要が生ずるのか等について説明されていません。

「該当される方には順次お知らせ」することはもちろん必要でしょうが、処分行政庁たる滑川市長は、ネット等の媒体を使って、上記疑問への回答を含め本件の概要を理解できるよう必要な情報の提供を迅速かつ的確に行い、利害関係者に対する説明責任を果たすべきです。因みに、被控訴人、被上告人兼相手方とされた筆者に対しても、敗訴した上告人代表者たる水野達夫滑川市長からのしかるべき対応がなされていません。

(固定資産税過誤納金の還付請求)

永代地上権設定地の所有者は永年に亘り当該地に係る固定資産税を誤って賦課処分されてきたところ、処分庁(滑川市長)はこの賦課処分取り消しに伴う過誤納金を遅滞なく還付しなければなりません(地方税法17条)。また、還付加算金を所定の要領で計算の上還付の金額に加算することとされています(同法17条の4、20条の4の2)。

一方、固定資産税に係る賦課決定(賦課処分の取り消しに伴う税額変更)や加算金の決定は、法定納期限の翌日から起算して5年を経過した日以後はできず(同法17条の5第1項、第5項)、過誤納金の請求権も請求をすることができる日から5年を経過したときは、(原則として)時効により消滅します(同法18条の3各項)。ただし、本事件(永代地上権設定地に係る平成30年度固定資産税賦課処分等取消請求事件)については、賦課処分の取り消しが判決で確定したことから、これに係る権利の時効期間は10年となりました(民法169条1項)。

さて、令和5年4月13日の原(控訴審)判決確定を受けて、処分庁(滑川市長)が地方税法の規定に基づき具体的に何時までにどのような賦課決定(税額変更)を行うのか不明であったことから、筆者は、念のため同年4月17日付けで、平成30年度分及び平成31年度(令和元年度)分から令和4年度分までの過誤納金の還付請求並びに令和5年度分の賦課処分の取り消しに伴う税額変更を求めました。

処分庁(滑川市長)は、令和5年5月8日付けで平成30年度から令和5年度までの年度ごとの固定資産税の税額変更通知書を送付してきました。変更の理由は、「永代地上権が設定されている土地について、納税義務者の認定が誤っていたため。」としています。そして、同月15日付けで平成30年度から令和4年度までの過年度分の年度ごとの「滑川市過誤納金還付通知書」が送付され、25日に指定口座に還付金が振込まれたところです。

滑川市所在の永代地上権設定地の所有者におかれては、5年前の平成30年度分の固定資産税が地方税法に基づく還付対象となるのか否か、市税務課資産税係に照会されることをお勧めします。

(要綱に基づく返還金支払申請)

滑川市では、滑川市固定資産税過誤納金返還金支払要綱(平成24年告示第46号の3)の規定に基づき、固定資産税の過誤納金のうち地方税法の規定により還付できない過誤納金相当額を返還金として支払うよう申請することができます。この要綱は、「納税者の不利益を補填し、もって税負担の公平と行政に対する信頼の回復を図ることを目的とする」(要綱1条)とされています。

本事件に即して申請要領の要点を説明すると、次のとおりです。なお、子細不明な点等については、市税務課資産税係に照会されることをお勧めします。

・適用基準(要綱3条)

本事件は永代地上権設定地に係る固定資産税の納税義務者の認定誤りであることから、要綱3条1号に該当します。ただし、地上権の存続期間が永代であること等が登記されていることが必要です。

・返還金の支払対象者(要綱4条)

返還金の支払い対象者は、過誤納金を納付した者(1号)の他、過誤納金を納付した者に相続があった場合にはその相続人(相続人が複数の場合には相続人代表者)(2号)も対象者となります。

・返還金の額(要綱5条)

返還金の額は、過誤納金相当額及び過誤納金相当額に係る利息相当額の合計額です。

・返還金の対象期間(要綱6条1項)

返還金の対象とする年度は、瑕疵ある賦課処分のあった年度から支出を決定する日の属する年度までのうち、

(1) 法の規定によって還付できない年度、

(2) 法定納期限の翌日から起算して20年を経過していない年度、

(3) 課税資料(固定資産課税台帳、収納簿等)により確認ができる年度、

のいずれにも該当する年度とされています。

・納付の確認記録(要綱6条2項)

納付の確認は、

(1) 市が保有する収納簿等の記録、

(2) 納税者又は相続人が保有する領収書、預金通帳等の納付記録、

(3) 前2号のほか、未納がないことの記録、

のいずれかの記録に基づき行うものとされています。

・返還金の申請(要綱8条)

返還金の支払を受けようとする者は、固定資産税過誤納金返還金支払申請書(様式第1号)に必要事項を記入し市長に申請しなければならないとされ、申請者の住所、氏名及び連絡先電話番号、対象となる物件、返還金額(各年度の過誤納金相当額)等を申請書に記載することとされています。

そして、要綱13条には、「この要綱及びその他返還金の支払事務に関して疑義を生じた場合は、関係者間で協議のうえ処理する。」とし、個々の返還金支払事務を必要に応じ協議の上円滑に処理する旨の規定が設けられているところです。

(筆者が行った返還金支払申請)

筆者は、令和5年4月17日要綱8条の規定に基づき、滑川市長宛平成29年度以前の返還金(過誤納金及び利息相当額)の支払申請を行いました。滑川市長は、同年5月8日付けの「固定資産税過誤納金返還金支払通知書」を筆者に対して送付してきたところ、その内容は筆者の申請に即したものでした。そして、同月25日に指定口座に返還金が振込まれたところです。ここでは筆者の返還金支払申請に関連した留意点を説明し、今後この要綱に基づき申請を予定する方の参考になればと考えます。

・返還金の対象期間について

筆者は平成11年度分から同29年度分の返還金を申請しました。平成11年度分からの申請とした点については、要綱6条1項2号「法定納期限の翌日から起算して20年を経過していない年度」という要件を満たさないとの見方もあることから、平成11年度分からとした論拠が必要と考えられました。

本事件は、平成30年4月の行政不服審査法の規定に基づく筆者の審査請求から始まったものです。平成31年度末(令和2年3月)、審査庁(滑川市長)が諮問した滑川市行政不服審査会(会長:金川治人弁護士)から、「本件対象土地(注:永代地上権設定地)について、審査請求人に対する賦課処分を取り消すのが相当である。」との答申があったにもかかわらず、審査庁たる上田昌孝滑川市長(当時)は、処分の取消しは公共の福祉に適合しないと認め本件審査請求を棄却する旨の裁決を行いました。この概要は令和2年5月のレポートで説明したとおりです。この審査庁の判断は、処分が違法であったとしても永年多数に及ぶ処分を取り消すことは公共の福祉に適合しないというとんでもない主張であり、もとよりこれは第一審判決及び第二審判決で否認されたところです。

平成31年度(令和元年度)の時点で、審査庁が答申に基づき審査請求人の審査請求を認容し賦課処分取り消しの裁決をしていれば、本事件はその時点で決着していました。実際は滑川市側の2度に亘る上訴もあり更に3年余り後の令和5年4月の判決確定まで時間が経過してしまいました。滑川市長の誤った判断により固定資産税の納税者たる筆者は還付金対象年度の還付を受けられなかったという意味で損害を受けたと言えます。このような事情を踏まえ、筆者は平成11年度から同29年度までの返還金支払申請をしたところ、筆者の申請に即して返還金の支払いがあったところです。

・対象となる物件について

申請書には対象となる物件(永代地上権設定地)を様式に則り記載する必要があります。ところで、以前は永代地上権設定地であった土地(底地)の所有権をその土地の地上権者に譲渡し永代地上権が(混同により)抹消登記された事例は相当数あるものと思われます。したがって、対象となる物件の記載に当たり留意すべき点は、申請者(所有者等)は、現在(令和5年度)の永代地上権設定地に関する記載だけではなく、過去20年間のいずれかの時期まで永代地上権設定地として所有していた土地(被相続人所有地を含む)についても漏れなく記載するということです。

このような土地の特定は、まずは、過去20年度分の納税通知書(課税明細書)記載の課税物件(土地)を年度ごとに確認し、仮に課税対象の土地ではなくなったものがあれば、その土地に永代地上権が設定されていたか否かを登記記録(全部事項証明書)で確認するとの方法で行うことが考えられます。特に平成10年代の土地の固定資産税は現在より高く、かつ、利息相当額も結構な額となることから、このような土地があった場合には、返還金の総額に影響するものと思われます。

・納付の確認記録について

納付の確認記録については、各年度の固定資産税納税通知書に振替納付口座が記載されていれば、未納がないことの記録を示すことまでは求められないものと思われます。もっとも、過去20年分の振替納付口座に係る通帳又はそれに代わる取引記録があれば尚更十分でしょう。振替納付口座を設定していない場合には、各年度の納付に係る領収書が必要となります。

(令和5年6月2日脱稿)

研究主幹 斉藤敏夫

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