(はじめに)

本稿は、筆者のレポート「永代地上権設定地に係る固定資産税賦課処分等取消請求訴訟」(令和3年12月23日脱稿)のフォローアップです。令和4年1月12日、本取消請求事件に係る富山地方裁判所(富山地裁)の判決言渡しが行われました。
判決のポイントは、
(1) 被告(滑川市)が原告(筆者)に対してした永代地上権設定地に係る平成30年度固定資産税の賦課処分については、当該賦課処分は違法であり、この処分を取り消すことにより公の利益に著しい障害が生じるとは認められないことから、当該賦課処分を取り消す、
(2) 一方、被告が令和2年4月23日付けで原告に対してした当該賦課処分に係る審査請求の棄却裁決の取消しを求める訴えについては、その目的が最終的に原処分の取消しを求めることにあるから、同処分の取消判決により訴えの利益を欠くから、棄却裁決の取消しを求める部分を却下する、
(3) 訴訟費用は、被告の負担とする、
というもので、原告勝訴となりました。
この判決において富山地裁は争点を3つに整理し、それらに対する地裁の判断を示しています。本稿ではその概要をレポートすることとします。

(本事件に係る3つの争点)

富山地裁は本事件を次の3つの争点に整理しています(括弧内は筆者による補足・加筆)。
(1) 本件各土地(筆者所有の永代地上権設定地)が「百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」(地方税法343条1項)に当たらないといえるか(争点1)
(2) 本件賦課処分(被告による原告に対する本件各土地についての平成30年度固定資産税賦課処分)を取り消すことにより、公の利益に著しい障害が生じ、同処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないといえるか(争点2)
(3) 本件裁決(被告が令和2年4月23日付けで原告に対してした本件賦課処分に係る原告の審査請求を棄却する裁決)が適法といえるか(争点3)
以下、それぞれの争点に関する地裁の判断の概要を記すこととします。

(争点1について)

判決文で地裁は、まず、土地についての固定資産税賦課処分について、「各土地の登記簿又は土地補充課税台帳に所有者(「百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」については地上権者)として登記又は登録された者を納税義務者として、その者に課税する方式を採用しており」と述べ、台帳課税主義に言及しています。また、「租税法は強行法であり、課税要件が充足されている限り、租税行政庁には租税の減免の事由や、徴収しない自由はなく、法律で定められたとおりの税額を徴収しなければならないとする租税法律主義(合法性の原則)」に言及し、市町村が台帳課税主義に基づかない恣意的な課税処分はできない旨述べています。
そして、本件各土地(原告所有の永代地上権設定地)における納税義務者は、
・平成30年1月1日時点(平成30年度の賦課期日)における本件各土地の登記簿上の所有者は原告であったものの存続期間を「永代」とする地上権設定登記がされていた、
・「永代」とは、その通常の意味からすれば、永久、すなわち同地上権が100年以上継続して存続することを意味するものであると解されるから、本件各土地の登記簿の記載から、本件各土地は、「百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」であると認められる、
・地上権の設定経緯等の登記簿等に記載のない事項を考慮することを前提とする被告の主張は採用できない、
ことから、各土地の登記簿上、存続期間を「永代」とする地上権設定登記に係る地上権の地上権者として登記された者であるというべきである、としています。
以上より、「本件賦課処分は、登記簿に所有者として登記された原告に対して行われており、納税義務者を誤ったものといえるから、違法である」と地裁は判断しています。

(争点2について)

「被告は、存続期間を「永代」とする地上権が設定された土地が、令和元年10月31日時点において合計625筆存在することから、本件賦課処分が取り消されることにより、利害関係の複雑化が生じ、課税庁である被告に大きな負担が生じ、公の利益に著しい障害が生じる旨主張する」点につき、地裁は「本件賦課処分を取り消すことにより、公の利益に著しい障害が生じるとはいえないから、本件において事情判決をすることはできない」と判断しており、その理由として次の事項を上げています。
・本件賦課処分を取り消すとの判決が確定したとしても、同判決の既判力は当事者及びその口頭弁論終結後の承継人等にのみ及ぶにすぎない(行政事件訴訟法7条、民事訴訟法115条)、
・行政処分取消判決の形成力は第三者に対しても及ぶものの(行訴法32条1項)本件賦課処分の名宛人は、原告のみであることからすれば、本件賦課処分を取り消すとの判決が確定しても、本件各土地以外の土地についての固定資産税賦課処分が一律に違法と評価されるとの法的効果は生じない、
・仮に、被告が本件賦課処分の取消判決を前提に、本件各土地以外の土地の所有者として登記されている者らに対して行った固定資産税賦課処分(平成30年度以前に行った同処分を含む)を取り消し、これらの土地の登記簿上の地上権者に対し、改めて固定資産税賦課処分を行うことになるとしても、その本質は、固定資産税の支払いについての債権債務関係の精算であり、新たな固定資産税賦課処分により上記土地の所有関係に影響を与えるものではない、等。
以上のことから、「課税庁である被告には、事務処理の負担が生じる可能性は否定できないものの、事実上のものにすぎないし、その事務処理の負担をもって、公の利益に著しい障害が生じるとまで認められない」と地裁は判断しています。

(争点3について)

「本件裁決が適法といえるか」との争点3については、原告の本件裁決の取消しを求める訴えにつき、本件賦課処分の取消判決により、訴えの利益を欠くとして、地裁は争点3に係る判断に立ち入らず却下しています。しかしながら、争点2において、地裁は、「本件賦課処分を取り消すことにより、公の利益に著しい障害が生じるとはいえないことから、本件において事情判決をすることはできない」と判断していることからして、被告の行政不服審査法45条3項の規定に基づく本件裁決(事情裁決)が適法とはいえない旨示唆しているものと考えられます。

(おわりに)

今般の固定資産税賦課処分等取消請求事件に係る富山地裁の判決は、次の点で意義ある判決だと考えます。
1点目は、地方税法343条1項括弧書きの規定と永代地上権設定地(本件各土地)に係る賦課処分につき、初めて司法の判断が示されたこと、2点目は、台帳課税主義と租税法律主義の観点から、登記簿等に記載のない事項を考慮することを前提とする被告の主張を明確に否認していることです。
争点2に関し地裁が述べているとおり、本件賦課処分を取り消すとの判決が確定しても、原告に係る永代地上権設定地以外の土地についての固定資産税賦課処分が一律に違法と評価されるとの法的効果は生じません。しかしながら、今般の判決は、課税庁における当該賦課処分に一定の影響を与えることが予想されるほか、幾つかの副次的効果をもたらす可能性を含意するものです。
これらの点については、判決が確定した後、改めてレポートすることと致します。

(令和4年1月17日脱稿)

研究主幹 斉藤敏夫

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