(はじめに)

本稿は、筆者のレポート「永代地上権設定地に係る固定資産税賦課処分に関する裁決書」(令和2年5月)のフォローアップです。前回のレポートから既に1年7か月経過したことから、本稿では、まず令和2年7月に本件賦課処分等の取消請求訴訟に至った経緯を簡単に振り返ります。そして、第一審裁判所(富山地方裁判所)に提訴した訴状の概要並びに原告(筆者)及び被告(滑川市)が提出した準備書面等に基づき本事件の争点を解説します。ただし、現在判決言渡し前なので、本稿では主に原告の主張を記述し、また、筆者自身の論評は極力避けることにします。

なお、本事件に係る裁判所での審理は令和3年9月27日に終結しており、令和4年1月12日に判決言渡しの予定となっています。判決の概要等は、判決言渡し後、レポートすることと致します。

(提訴に至る経緯)

筆者は滑川市(旧滑川町)に永代地上権(存続期間を永代と定めている地上権)が設定されている土地(以下「永代地上権設定地」という。)を複数筆所有しています。これらの土地は、いずれも明治33年3月1日付けで永代地上権が設定されその旨登記されている土地です。

固定資産税の納税義務者は、地方税法(昭和25年法律第226号)第343条第1項に、「固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する。」と規定されており、百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地に係る固定資産税の納税義務者はその土地の地上権者とされています。したがって、永代(永久)は百年より永い存続期間であることから、永代地上権設定地に係る固定資産税は、その土地の地上権者に賦課されるべきものと考えられます。

ところが、毎年年度初めに課税庁(滑川市長)から筆者に送付される固定資産税納税通知書には、永代地上権設定地についても土地所有者である筆者に対して賦課処分されていることから、筆者はこれを不服として、行政不服審査法(平成26年法律第68号)の規定に基づき、平成30年度の賦課処分について当該賦課処分の取消しを求める審査請求を平成30年4月に審査庁(滑川市長)に対して行いました。

2年間に及ぶ審査手続きを経て、令和2年4月審査庁(滑川市長)は審査請求人(筆者)に対して本件審査請求事件に係る裁決書を送付しました。これに先立つ、審査庁の諮問機関である滑川市行政不服審査会(会長:金川治人弁護士)の答申書では、審査請求人に対する固定資産税賦課処分を取り消すのが相当であるとされていたにもかかわらず、審査庁の当該裁決の内容は処分取消しの審査請求を棄却するというものでした。(その概要については、冒頭で紹介した令和2年5月のレポートを参照ください。)

このような事情から、令和2年7月筆者は、滑川市(代表者上田昌孝市長)を被告として、筆者所有の永代地上権設定地に係る固定資産税賦課処分の取消し及び上記審査庁の棄却裁決の取消しを求め、富山地裁に提訴しました。以下、訴状の概要と争点のポイントを解説します。

(訴状の概要)

請求の趣旨は次の2点(訴訟費用に関する事項は除く)です。

(1) 被告(滑川市)が原告(筆者)に対してした永代地上権設定地に係る平成30年度固定資産税の賦課処分を取り消すこと。

 (2) 被告が令和2年4月23日付けで原告に対してした当該賦課処分に係る審査請求の棄却裁決を取り消すこと。

上記(1)及び(2)のそれぞれについて、被告による賦課処分及び棄却裁決は違法であることから取り消されるべきと原告は主張しています。その理由を簡潔に述べると次のとおりです。

(1) 固定資産税賦課処分の取消しについて

大審院明治36年11月16日判決(民9輯1244頁)は、地上権の存続期間については何らの制限はなく、永代地上権は存続期間の定めのない地上権ではなく、存続期間の定めのある地上権であることを明らかにしている。

・学説上も永代地上権は存続期間の定めのある地上権に該当すると解されている。

・不動産登記法は地上権に存続期間の定めがあるときはその定めを登記事項とする旨規定しており、原告所有地に設定された地上権は存続期間を「永代」として登記されている。

・永代地上権の存続期間は永久であり、これが100年を超えることは明らかである。

以上のことから、永代地上権は「百年より永い存続期間の定めのある地上権」に該当するため、原告所有の永代地上権設定地の納税義務者は地上権者であって、所有者である原告ではない。したがって、本件賦課処分は、土地所有者である原告に対して課されている点で違法であり、取り消されるべきである。

(2) 審査請求の棄却裁決の取消しについて

被告は、本件賦課処分を不当であると認定しつつ、処分の取消しは公共の福祉に適合しないと判断し、行政不服審査法第45条第3項に基づき、本件審査請求を棄却する旨の裁決を行いました。

(※)行政不服審査法第45条第3項(全文)

審査請求に係る処分が違法又は不当ではあるが、これを取り消し、又は撤廃することにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、審査請求人の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮した上、処分を取り消し、又は撤廃することが公共の福祉に適合しないと認めるときは、審査庁は、裁決で、当該審査請求を棄却することができる。この場合には、審査庁は、裁決の主文で、当該処分が違法又は不当であることを宣言しなければならない。

被告が行政不服審査法45条3項を適用して審査請求を棄却した裁決については、賦課処分の取消しにより「公の利益に著しい障害を生ずる」ことはなく、また、取消しが「公共の福祉に適合しない」とは認められず、同法45条3項が適用される余地はないことから、原告はこの裁決は違法であると主張し、次のように補足しています。

・この裁決はいわゆる事情判決(裁決)を行ったものであるが、過去の裁判例によれば、土地区画整理事業における換地処分、都市計画変更決定に係る都市計画事業認可処分、土地収用裁決の事案において事情判決が行われている。

・このような事案において事情判決が行われているのは、これらの処分が取り消されると、既に当該処分を前提として形成された多数の関係当事者間に生じた法律関係、事実関係が覆り、公共の利益に著しい障害を生じるためであると解される。

・一方、原告に対する賦課処分が取り消されたとしても、被告は改めて原告所有の永代地上権設定地の地上権者に対して固定資産税賦課処分を行った上で当該固定資産税を徴収し、原告に対しては既に納付した固定資産税相当額を還付すれば足りるのであって、上記事案のように多数の関係当事者間の法律関係、事実関係を覆す事態とはならない。

・したがって、本件裁決は、行政不服審査法45条3項の定める要件を充足していない点で違法であり、取り消されるべきである。

(台帳課税主義の観点からの賦課処分の違法性)

審理は原告及び被告が提出した書面(訴状、答弁書及び準備書面)と書証(証拠資料)により進められましたが、この間、原告は台帳課税主義の観点からも被告の賦課処分が違法である旨主張しています。台帳課税主義とは、真実の所有者が誰であるかを確認することなく登記簿上の所有者(百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については地上権者。以下同じ。)に納税義務を負わせるとの原則で、徴税事務の便宜上、画一的形式的に登記簿上の所有名義人を所有者として取り扱えば足りるとされたものです。そして、地方税法は固定資産税の納税義務者の判定につき、この台帳課税主義を採用しています(同法343条1項、2項)。

原告所有の永代地上権設定地の登記簿には存続期間を永代とする地上権が設定されているため、台帳課税主義の観点から、登記簿記載の文言どおりに、それら土地には存続期間を永代とする地上権の設定がなされていると被告は判断すべきです。被告は、これらの地上権は期間の定めのない地上権である、永代は永久を意味するものではない、永代が永遠や永久を意味するかどうかは当時の当事者間の意思解釈の問題である、永久たる存続期間の定めは無効である、などと主張しています。しかしながら、台帳課税主義の下では、課税庁(被告)は登記簿上の記載から画一的形式的に判断すべきであることから、この点で被告の主張は台帳課税主義に反しており、原告への賦課処分は違法です。

(判決の意義とその含意)

今回の提訴は、筆者所有の永代地上権設定地に係る固定資産税賦課処分の取消し及び審査請求に対する棄却裁決の取消しを求めるもので、あくまでも筆者個人に対する処分や裁決に係るものです。しかしながら、今般の判決は、地方税法343条1項括弧書きの規定と永代地上権設定地に係る賦課処分につき初めて司法の判断が示されるものとなることが期待され、その点で意義あるものと思われます。また、筆者と同様な立場にある永代地上権設定地の所有者にとっては、この判決を受けて、自らへの固定資産税賦課処分につき、しかるべき対応をとる契機となるかもしれません。

いずれにせよ、令和4年1月12日の判決言渡しを受け、またレポートすることと致します。(令和3年12月23日脱稿)

研究主幹 斉藤敏夫

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